施工不良・瑕疵を無償で直させる~過去の無償改修事例から~

第6回配信 「外壁タイルの浮き」

ビルやマンションなどの外壁には、美観や躯体の中性化防止のためにタイルが貼られているケースが多くあります。 タイル仕上げは塗装仕上げより高級感があり、また耐久性があります。しかしながら、タイルは落下リスクが伴う仕上げでもあります。

建築基準法では第12条で定期報告についての規定があり、特殊建築物の外装仕上げに関しては2008年4月から国土交通省告示第282号別表に示されるように調査・報告の義務が適用されることになりました。その中で、10年ごとのテストハンマーによる打診調査が謳われています。 現在のタイル張りとは、それほどリスクがあるものなのでしょうか・・・
今回の施工不良のテーマは外壁タイル浮きですが、「下地処理」、「張り方」、「タイルの種類」のそれぞれ3つの観点から改修させた事例を紹介します。

下地処理

実は、日本建築学会で2012年に有機系接着剤によるタイル後貼り工法がタイル張りの標準仕様書に掲載される前までは、セメントモルタルによるタイル後貼り 工法が最も多く採用されていた工法でした。その工法では、1日のうちの寒暖差や季節の寒暖差で、陶片タイル自体が伸縮を繰り返しそのことで接着界面の付着力を低減することが分かっています。セメントモルタルで貼られた場合、陽の当たる南面や西面が、北面や東面よりはるかにタイル浮きが発現するのは、陶片タイルやモルタルの伸縮が原因だったのです。

この2012年の改定で、直されたもう一つのポイントは、タイルを貼られるコンクリート躯体面の下地処理が挙げられます。 タイル張りの剥離事故は、コンクリート下地と下地モルタル、下地モルタルと張り付けモルタル、 あるいはコンクリートなどの下地と張り付けモルタル接着界面で発生する場合が多いのです。(下図参照)タイル張り工事において接着界面での剥離事故を防止するには、単なるモルタルの接着力に期待するだけでなく、接着面に凹凸を付けて温湿度変化に伴って、接着界面に発生する せん断力に機械的に対応できるようにする必要があります。

改定以前においてはコンクリート躯体面に凹凸をつける方法として、コンクリート硬化後の超高圧水で「目荒らし」をする下地処理が紹介されていますが、「目荒らし」をしない場合でも「コンクリート面の 清掃」は不可欠として、やや尻すぼみな表現となっていました。改定後は、平滑なコンクリート面においては清掃レベルのワイヤーブラシ掛けなどは下地処理とならず超高圧水洗浄法を目荒らしに適した工法としています。実は、改定前の仕様で施工されたタイル張りにおいては、この「目荒らし」の下地処理がされないでせいぜい清掃程度の下地処理で済まされているケースがとても多く見られます。

下の写真は、ある分譲マンションの相談事例です。
築2年の間に、1m四方の大きさで外壁タイルが複数回落下しました。売主は、タイル落下の原因はいろいろ考えられるとして、施工不良を認めていませんでした。しかし、浮きタイル部分を剥がして下地の躯体の様子を目視確認したところ、下の写真のように目荒らしの跡が全くないか(写真1a,写真1b)、あっても申し訳程度の跡(写真2)が確認できただけでした。後日、無償でタイル張り直し工事をさせた際は、しっかりサンダーで目荒らしをさせて、(写真3)凹凸のある下地を造ってから、有機性接着剤で張り付けました。(写真4)

写真1a タイルを撤去した面に目荒らしの跡が全くありません
写真1b パネルコートを使用した躯体面が現れました
写真2 わずかに目荒らし跡が残っていますが充分な下地処理とはいえません
写真3 しっかりサンダーで目荒らしを掛けました
写真4 その後に有機性接着剤でタイルを張り直しました

タイル浮きの改修にあたっては、下地モルタルが健常でないと判断した場所は、張り替えと指示しました。タイル目地がしっかり残っているなどで、下地モルタルが健常と判断された場所は、50穴/㎡の割合でエポキシ樹脂ピンニング注入を行いました。国土交通省の仕様では、ピンニングの割合は16穴/㎡でいいのですが、あえて50穴/㎡と増やしてタイル4枚に対して、目地交差点に1穴設けることで、すべての浮きタイル下部にエポキシ樹脂を充填させるようにしました。(写真5)

青いテープで囲まれている範囲が浮きタイルの場所です
ピン穴を穿孔しました( ← 印) タイル4枚に1か所の割合になっています。

改修工事が終わってからの浮きタイル再確認の際にピン穴を穿孔時ドリルの振動で周辺のタイルが浮いてしまったのが判明し、さらにテープ周辺にピンニングをしてもらいました。

打診検査時に、浮いていないタイル面については、各階の柱面ごとにタイルの引っ張りテストを行い0.4N/m㎡以上の接着力があり、かつ接着界面の破壊率が50%未満を合格として、不合格の面は予防的な措置として、16穴/㎡のピンニング処理を施してもらいました。

張り方

次の事例は、20数年来外壁タイルの剥がれに苦しんだある寮の事例です。この建物は3階建ての鉄骨造で、セメント成形板を貼った上にタイルが貼られていました 診断をした結果、タイルの剥がれは主に目地周りとサッシ周りに、端を発していることがわかりました。下の2枚の写真は、水平の目地周辺の様子を撮ったものです。見た目にも浮きが確認できます。

下地のセメント成形板との関連が疑われたため、浮きタイルを部分的に剥がしてみました。
すると、下地のセメント成形板の版間シールの上にタイルを被せた場所で、浮きや目地割れを起こしていることが確認できました。(写真6a,写真6b)

写真6a 水平の版間シールの上に貼られたタイルが浮いていて裏側に雨水が廻り込んでいます
写真6b 垂直の版間シールの上に貼られたタイル目地が割れていて浮きや雨水侵入を招いています

さらに深刻な状態はサッシ周りのタイル落下・変形でした。

窓上部のタイルが割れたり下がってきた様子です。窓の網戸はそのタイルの影響で開閉が できなくなりました。
サッシ周りに垂直のひび割れが発現していることが確認できます。窓周りは、上部と両端でタイル割れや浮き、落下が起きていました。

サッシ周りのタイル割れや浮きの原因は、サッシの納まり にありました。 セメント成形板を貼る建物の場合は、サッシは外付けに 納めるべきところ、50mmほど内側にサッシが取り付け られていました。そのため、上の写真のように、サッシ周りに50mmの モルタルを付けおくるする必要が生じました。 そのモルタルが肌別れして、タイルの割れや浮きを呼んで いたのです。

改修方法は、予算や工期もさることながら、安全性を優先してタイルを全面撤去して、塗装で仕上げること にしました。タイルを剥がした跡のセメント成形板の復元や、版間の防水処理に時間と手間をかけ、塗装で仕上げた写真が 下の様子です。窓周りは、モルタルをすべて撤去して、発砲ウレタンで隙間充填後に化粧アルミアングルで3方を 囲みました。

タイルの種類

3つ目の事例は、築11年目の鉄筋コンクリート造分譲マンションです。ここでは、玄関前の大判タイルの落下が相次ぎ、原因を確認することなく貼り直しを繰り返していました。写真1のように、側面から見てもタイルが剥離している様子が確認できます。写真2は、使用されたタイルを裏側です。調べてみたところ、このタイルは本来は床に使用されるべき もので、壁に使用する場合は低層部分に限るとされ、裏側の加工もそれに沿ったものでした。

写真1
写真2

そこで、貼る方法を接着剤に変えてみました。 モルタルで貼る工法の場合は、裏足は蟻足状の加工が有効とされますが、接着剤の場合には反って、ずれ防止 程度の裏足加工の方が接着面が多くなり、有利になると判断したからです。

下の写真は無償張り替え作業のタイル側面です。
有機性接着剤を使用して張り替えを行い、1年経過後も タイル剥がれは起きていません。