建築の第三者機関からのアドヴァイス

マンション大規模修繕工事

工事前の建物診断でどこまで調査するか?

10~12年ごとに行われる分譲マンションの大規模修繕工事について私見申し上げます。大規模修繕工事と言っても、築年数によって修繕のポイントは違ってきます。そのポイントに沿って、修繕工事のための事前建物診断の視点を記しました。

第1回大規模修繕工事 当初の設計・仕様・施工に問題がなかったかという視線で調べてみましょう。
第2回大規模修繕工事 躯体の中性化が少し進んでいます。躯体検査をしてみましょう。
第3回大規模修繕工事 給排水ガス設備の改修時期が迫っています。設備診断をとりいれましょう。

マンションの場合、とかく最大級の対応を求められます。そのため、建物診断も不要な調査や大げさな検査が盛り込まれることがあります。そういう懸念のある診断の一つが外壁タイルの打診調査です。外壁タイルの浮きや割れが何枚なのかを事前調査で確定しようとする調査があります。それらの調査と限界を下に記しました。

  調査内容 限界
赤外線調査 外壁面の赤外線撮影をします 太陽光が当たる面しか反応しません
数量確定までの正確性はありません
打診ロボット 外壁に沿って打診・撮影をします 平滑な面しか調査できません
一部足場架け 足場を一部かけ、打診調査します 先行調査部分の特異性がある場合は反映できません

これらの先行調査は、比較的高額な費用がかかります。そこまでしても、上記のような限界があるため正確なタイルの浮き・割れの数量はわかりません。正確な数量は、全面足場設置後のひとによる打診調査しか把握できません。そして、見積もり数量との差額はその段階で清算することになります。清算するのであれば、先行調査の費用は無駄といえるのではないでしょうか。予算ブレを最小限にしたいという思惑は守られるかもしれません。

足場をかけないで修繕工事をするやり方を考える

足場や運送費などは仮設経費といって、建物改修に直接必要な費用ではなく段取りのために必要な費用でしかありません。そのため、そういった経費をできるだけ省こうという発想は理解できます。ただし、足場をかけないで工事を行う場合は限定的にした方がいいでしょう。

足場をかけないということは、それに代わる仮設段取りとして屋上から降りるゴンドラや高所作業車を使用することになります。足場をかけない工事を勧める方は、この方が仮設経費を少なくできることを推薦の根拠にしています。しかし多少の経費削減になったとしても、以下の理由から足場をなくすことはやめた方が賢明です。

すなわち、外壁タイルの改修ひとつをとっても、(1)打診調査 (2)高圧水洗浄 (3)患部タイル撤去 (4)躯体補修 (5)アンカーピンニング (6)タイル貼り (7)目地入れ (8)シール打ち (9)薬品洗浄・・・と大きな工程だけでも9段階に亘ります。これらの工程は、養生期間をおいて次の工程に行くべきもので、例えば乾かないうちに次の材料が塗られる、まだくっついていないのに仕上げ材が貼られる・・・ということがないようにしています。

正規には、この工程ごとにゴンドラを下すことになりますが、作業範囲のせまいゴンドラでは能率が悪く外壁各所の作業進行をきっちり把握できなくなります。管理者もゴンドラでしか目視確認ができないため、1回のゴンドラ作業の中で2~3工程を一気にされても確認しようがありません。ここまで極端にならないまでも、必要なときにはいつでもその改修場所に行ける状態ではないため、悪気がなくても、正規の工程を踏まえないで進んでしまうリスクが大いにあるといえます。施工者も管理者もともに不便なゴンドラを利用することで、品質の悪い工事が行われる可能性が高まります。

最近では、自社の特異性を訴えたいがために、足場なしの工事を勧めるところもあります。1回で作業が済む改修工事(たとえばシール打ち等)には、ゴンドラや高所作業車は大いに利用されるべきと思います。しかしながら、次の大規模修繕工事までは大きな出費なしに建物維持を図るために、腰をすえて工事をおこなうことが肝要な工事の場合はどうでしょうか。目先のわずかな仮設出費を惜しんで、建物改修工事の品質ダウンのリスクを負わないようにしたいものです。

管理会社との付き合い方

分譲マンションの管理運営について、管理会社との付き合い方はとても大きなウエイトを占めます。多くの管理組合は、販売元の子会社に管理をまかせています。建物に瑕疵等の問題もなく、維持運営についても当初の計画通りに進んでいる時は相思相愛で問題はありません。しかし、問題は本当にないのでしょうか。

新築当初に結成された多くの管理組合が、組合本来の活動・歯車がうまく廻らない発足後1~2年のうちに実は最初の大きな山場が訪れます。引き渡し後の2年目点検です。この2年点検後は下記のような多くの部位が保証期間を終えてしまいます。

  • 外廊下の防水
  • 外壁の躯体のひび割れ
  • ベランダの防水
  • 屋根・外部の排水不良

2年目点検は、これら保証が切れてしまう工事範囲を中心にしっかり診ていくべきです。該当箇所に漏水やひび割れが起きている場合は、まずはその原因をきっちり探ることが肝要です。マンション販売元とつながっている管理会社の場合、どこまで管理組合の立場に立って問題を洗い出してくれたかをしっかり見ていきましょう。

普段の管理費については、管理組合はしっかりサービス内容と価格を比較検討することが多いため、管理会社はカスカスの利益で管理を請け負わざるを得ないことになります。そのため、設備の定期改修や12年ごとに巡ってくる大規模修繕工事は、管理会社にとって大きな意味を持ってきます。