施工不良・瑕疵を無償で直させる~過去の無償改修事例から~

第4回配信 「地下ピットのコア抜き」

最近、ネットで検索されるキーワードに「地下ピット」があります。
南青山の高級分譲マンション販売において、平成26年3月に販売中止になった事件が きっかけと思われます。売主:三菱地所レジデンス、施工:鹿島建設で完成目前のマンションでした。そのマンションでは、地下ピットの基礎梁に対してダイヤモンドカッターによるコア抜きを200箇所以上行っていました。

「地下ピット」とは、1階床下にある配管スペースのことで、4面を基礎梁などで囲まれた 高さ1~3mほどの空間です。各階の部屋や廊下の配管・配線は、パイプスペースを縦に降りて地下ピットまで行き、そこから水平に伸びて建物外に出ていきます。その際に、配管や配線が基礎梁に当たる場合も当然出てきます。梁に当たるときは梁に あらかじめ穴を設けておき、その貫通穴を利用して配管・配線を完成させます。そして梁貫通穴が直径10cm以上の場合は、その周りに補強筋を入れるようになっています。 下の写真は、実際の地下ピットの様子です。

基礎梁を貫通して配管や配線する穴は、あらかじめ設けられた穴であり「スリーブ穴」と称し、 構造図で指示された開けても構わない位置や穴周りの補強を行っています。下の写真は、配線・配管用に基礎梁に開けられたスリーブ穴です。

さて、このスリーブ穴はどのように設置されたのでしょうか・・・?
下記写真は、ある工事現場における基礎梁の鉄筋配筋の様子です。梁の上下には太い鉄筋が水平に並んでいます。この鉄筋を「主筋」といい、梁の耐力を 左右する大事な鉄筋です。主筋をロの字型に巻いている縦の鉄筋を「あばら筋」といい 梁の形状破壊を防ぐ鉄筋です。下の右写真は梁貫通穴まわりの拡大写真です。 必要な位置に紙製の筒を固定し、その周りに補強筋が配されています。鉄筋の外側に、せき板を設置した後でコンクリートをその中に流し、コンクリートが固まった後にせき板を外すと、貫通穴が開いた基礎梁が完成します。

このように、梁のスリーブ穴はあらかじめ補強されているお陰で、その穴がなかったと同程度の耐力が見込まれます。問題となるのは、コンクリートを打設した後にダイヤモンドカッターで開けられた「コア穴」です。

コア穴を開けてしまった経緯は、いくつか考えられます。
・配管ルートを変更した場合
・スリーブ穴設置を失念した場合
・設置したスリーブ穴の高さをまちがえた場合
上記のような経緯で、やむを得ず梁の貫通孔をコンクリート打設後に設ける際は ダイヤモンドカッターにて開けるしか方法がありません。その場合には、開ける位置や大きさ、補強方法を構造設計者にしっかり指示を受けることが肝要です。しかしながら多くの事例では、現場サイドだけで事が済まされ、コア抜きの事実を構造設計者が知ることはあまりありません。そのため、コア抜きは設備業者任せとなりがちで、結果として無用な大きさになったり梁の鉄筋を切断したりするケースが多々あります。下の写真は、コア抜き事例です。

八の字型の穴に排水管が通っています。上の穴がもともと設置されていたスリーブ穴です。その穴の位置では排水管の勾配が取れないために下側にコアを開けたようです。結果として直径125mmのスリーブ穴で済まなくなり八の字型の外寸でみると直径200mmほどの穴が開けられたことになります。
コア抜きしたのに使用されていない200mmの穴です。コア内部の切断面をよく見ると、断面上側には茶色の丸い点があり側面には茶色の筋が確認できます。これは切断された鉄筋が錆びた跡です。位置的に考察すると、切断された鉄筋は肋(あばら)筋です。
八の字の穴に電線が通っています。右の穴がもともと設置されていたスリーブ穴です。何らかの理由で、そのすぐ左側にコア穴が開けられました。コア内部の切断面の上側に三日月型の茶色の筋が5本見えます。位置的に考察すると切断された鉄筋は主筋です。

交渉のステップ

コア抜きを行った業者さんがコアを確認できた時点でまだ存続している場合には、無償で構造補強を してもらうように働きかけましょう。そのための標準的な交渉ステップを、参考までにお示しします。
当協会が交渉サポートする場合は出来る限りこの最初の段階から絡んでいきます。

  1. 現況確認 コア抜きの現況をしっかり調べましょう。すべての地下ピットの基礎が対象になります。コア穴の位置と寸法を、各地下ピットごとに展開図に落とし込みます。また、コア断面を確認して鉄筋跡があるかないかを調べます。その場合、目視確認できるほどコア内径があれば目視で、そうでない場合は内視鏡検査をお勧めします。鉄筋切断はコア断面からの目視確認だけで判断するのではなく梁側面をRCレーダで鉄筋非破壊検査をすることで補完されます。
  2. 構造図面・仕様書の照合
    現況コア抜きの位置や大きさの仕様違反・切断鉄筋の種類を構造関係書類で確認します。
  3. ダメージ構造計算
    鉄筋切断やコア抜きが梁の耐力をどれだけ損耗させているかを構造計算します。確認申請書のうち構造計算書が必要になります。
  4. 補強もしくは現況回復の検討
    補強方法が有効かどうか、その方法で補強した場合は当初の梁耐力同等以上になっているか。これらの検討を構造計算で耐力件際しておきます。
  5. 補強もしくは現況回復
    地下ピットの作業環境を考慮して、補強方法・現況回復方法を検討します。肋筋の切断であれば、炭素繊維シートの貼り付けが有効です。主筋の切断であれば、補強するというより図面通りに再施工するようにしましょう。主筋周りのコンクリートを除去する場合は残った躯体にダメージが残らないようにするためにブレーカーはつりは選択すべきではありません。ウオータージェットにより鉄筋の周りのコンクリートをゆっくり削り取ることをお勧めします。
  6. 住民説明会
    マンションであれば区分所有者に対して、これまでの経過とこれからの改修工事内容を説明します。
  7. 補強もしくは現況回復工事
    実際の工事を進めてもらいます。
  8. 経過観察
    改修工事が終ってから10年間は定期的な経過観察をしていく必要があります。