KOAコーチの「経営者に聞く」

建築診断士とは・・・鷲尾さんの場合

川添:

鷲尾さんのこれまでの経歴を教えてください。

鷲尾:

もともとはゼネコンの経営者なんです。父の後を継いだのですが、私が入る前から累積赤字がありまして、私の代で会社を閉めました。その後紆余曲折しまして、今は建築診断士として仕事をしています。

川添:

その時期は大変だったことと思います。その辺はまた後ほどお聞きするとして、まずは、耳慣れない(笑)建築診断士というお仕事についてお聞きしたいです。

鷲尾:

(笑)建築やってる人間でこういうのを専門でやっているのは数は少ないと思いますね。文字通り建築に絡むいろいろな診断をするわけですが、たとえば、マンションを買おうと思っているんだけど、この建物大丈夫だろうかとか、土地を買おうと思っているんだけど買うに値するだろうかとの建築の不安や疑問の相談に乗っています。あるいはマンションの改修工事などで、建設業者とは違う第三者の目で建物を診断して、必要な改修工事のリストをあげたりするんですよ。

川添:

そうすると鷲尾さんのお客様というのは、業者さんではないわけですね。

鷲尾:

そうそう。ビルなどの不動産をお持ちの方やこれから持つ個人や法人の方、後はマンションの管理組合さんなど。私の場合、診断するだけではなくて、業者さんとの交渉もするんです。

川添:

ほう~、といいますと。

鷲尾:

マンションの例を挙げますね。マンションの場合は避けられない三つの潜在的な問題点があるんです。まず分譲マンションというのは基本的に予算と工期がないんです。それに加えて目の前に施主がいない。これはどんな一流会社がゼネコンで入ったとしても、この3つの状況はついて回りますね。皆さんにも名前がよく知られているようなデベロッパーだったとしてもです。厳しい予算、厳しい工期、施主の不在。ですから、一定以上のレベルはあるにしろ完璧な建物にはならないんですよ。本当はこれだけの日本の一流企業が組んでいれば完璧なものができるはずなのですが。みなさんはスーパーゼネコンや○○商社など有名な名前があったら安心するでしょう?

川添:

はい。安心して買っちゃいます(笑)

鷲尾:

だけど違うわけ(笑)それはね、仕事に入ってみて建物診断していくとよくわかるんですよ。マンションだと共用部の雨漏れや外壁の亀裂などの保証期間は引き渡してから2年。だから管理組合も1年点検より2年目のときのほうが真剣になります。そこでプロの目を入れようということで呼ばれるわけ。

川添:

プロの目で見るとどんなことが分かるのでしょうか。

鷲尾:

問題点って問題を起こした人が責任を負わなければならないですよね。ところがその問題の原因って建築の場合はっきりしないんですね。マンションは工場だけでなく現場で生産するものでね。その日の天候にも影響されるものなんです。たとえばクラック=ヒビですが、白華現象といって、そこから白い粉みたいなものが噴出したりする場合があるんです。これはクラックから中に水が入って流出したコンクリートの成分が大気の炭酸ガスと化合してできる炭酸カルシウムで、漏水してるという信号なんですよ。これを放っておくと鉄筋まで雨水がいき、その鉄筋はさびるともとの2.5倍の体積に膨れ上がりコンクリートを押し上げるということなんですよ。原因はコンクリートを打つ日に雨だったとか、コンクリート自体の強度が低いとか、鉄筋が本当は入っていなければならないところに入っていなかったとか。要はそういう現象が出たときにいくつか原因が考えられることで、原因を特定できないところに問題があるんですね。業者と交渉するときに原因を究明できないから普通の人は嫌がりますよね。だってクラックを外から見ただけではその原因なんて分かりませんから。

私の仕事は、そこを調べ上げて追及していくわけですよ。相手が施工や設計上のミスだと認めない限り有償になってしまいますから、こんな原因があるんじゃないかって想像しながら徹底的に調べあげていくんです。つまり、無償の工事を勝ち取るべく業者と戦っていくんです。

川添:

戦う?