被災診断

東日本大震災の際は、震源地近くのみならず遠方地でも多くの建物が被害にあいました。ガラスの割れ・塀の倒壊・屋根瓦の落下などの被害であれば、専門家の判断を待つまでもなく対処療法で修繕すれば済むことです。 しかし、例えば外壁や床に不可解なひび割れが発生したり、建物の沈下を疑わせる現象が出てきた場合は、現況の建物の診断や今後の対応を建築のプロに相談されることをお勧めします。

お客様のお悩み ― こんな方におすすめ

  • 今までなかった場所にひび割れが出てきた
  • 地震の際の揺れが激しく、建物がダメージを受けてしまったか調査したい
  • サッシや入口建具が開けずらくなったが、建物の不同沈下を調べてほしい
  • 棟の間にあるエキスパンション金物が破壊されてしまった

被災診断(建物診断)の進め方

1.聞き取り調査・書類チェック

初めに、該当建物の気になる事象や過去の補修履歴を聞かせて頂きます。
また保管されている設計図書を拝見させてもらい、建物の概要を確認します。

2.図面の復元

昭和30~40年代竣工の建物の場合、建築図面がそろってないことがあります。
被災診断後に改修することを考えた場合には、不足の図面は可能なかぎり復元することをお勧めします。

1. 意匠図の復元

配置図、各階平面図、立面図、内外部仕上げ表は基本図面となります。
現況を採寸し仕上げ寸法での図面を作成します。

2. 構造図の復元

躯体図
各所のコア抜きを行うことで仕上げ材の厚みがわかります。 意匠図を利用しながら、躯体の図面を作成します。

配筋図
木造や鉄骨造の基礎、鉄筋コンクリート造の躯体内部にある鉄筋の位置や径を調べるためにできるだけ非破壊方法で検査します。しかしながら躯体の厚みがある梁や柱の鉄筋径は、破壊検査でしか判明しません。 場所を選定し、コンクリートを斫って鉄筋を目視チェックします。 それらのデータをもとに配筋図を作成します。 鉄骨鉄筋コンクリート造の場合は、鉄骨部材がわかるまでコンクリートを斫らないといけないため検査によるダメージが大きすぎます。お勧めいたしません。

3.建物診断 1次診断

該当建物の躯体診断を行ないます。

外部 外壁、基礎、屋上、外階段、外構、ベランダ
内部 内壁、床、天井、内階段

1. 仕上材・防水のダメージ調査

外壁のタイル・屋上の防水などの浮きや剥がれ、開口部の変形などを目視・打診調査をして診断します。仕上げ材や防水材は経年劣化するものですが、躯体の変形で起こったものがないかをチェックします。
使用する道具は以下のものです。

打診棒
打診棒
膜厚測定器
膜厚測定器
水分測定器
水分測定器

2. 躯体のひび割れ検査

鉄筋コンクリート造などの建物の構造部分を「躯体(くたい)」といいます。
地震などの影響で、その躯体にひび割れが生じることもありますが、ひび割れ自体は地震以外でもさまざまな原因で起こります。乾燥収縮によるもの、構造的な原因によるせん断ひび割れなどを、ひび割れの位置や幅を診てその原因を探ります。原因によって、その対応策が違ってくるのは当然です。
下の写真は、ひび割れ幅を測るクラックスケールです。ひび割れは幅を測ることにより、その深さが躯体に影響のあるところまで到達しているかを判断します。ひび割れ幅が0.2mmまでは、ごくごく軽傷といえますが、それ以上の場合はエポキシ樹脂の注入などの躯体補強のお手当が必要です。

クラックスケール
クラックスケール(0.05mm単位で測定可能)

下の図は柱のひび割れを判断する資料です。床や壁、梁についても同様な資料に基づいて判断していきます。

3. 不同沈下調査

建物が不同沈下しているかを調査します。
具体的には、壁などに発生したひび割れのパターンや床の勾配、レベル測量で判断します。 各階の沈下量を測定し、建物全体の変形を把握します。

4. エキスパンション調査

建物が棟別構成になっていて、各階が通路などで繋がっているような場合は、ジョイント部にエキスパンション金物が使用されています。
地震時の揺れは「層間変形角」(地震時に起こる建物の水平変位を階高で割った数値)の規定に従うことになります。 しかし設計上必要な寸法が確保されていなかったり、金物が変位に耐えられる構造になっていない場合もあり、そういった不安要素がないかどうかをチェックします。

これらの結果は報告書にまとめ提出します。

3.建物診断 2次診断

1次診断で、躯体に変位が現れていて構造自体の強度に疑問が出てきた場合は、以下の検査で躯体の強度を数字化し、建物の被災原因ひいては補強方法の検討資料とします。

1.コンクリート中性化試験

コア抜き採取した検体にフェノールフタレイン液を塗り、空気中の二酸化炭素や酸性雨等の酸性に侵された深度を測定します。コンクリート自体はもともと弱アルカリ性です。酸性に侵されると外側から中性になっていきます。コンクリートが中性になると、躯体内部の鉄筋が酸で浸食を受けやすくなります。

初めに鉄筋探査機で鉄筋位置を確認しマーキングします
コア試供体を抜き取ります
色が変わっていない部分が中性化したところです

2.コンクリート圧縮強度検査

コア抜きした検体を耐圧試験機により荷重をかけ、破壊するまでの最大荷重を計測します。その後、試供体の断面積で割り圧縮強度を算出します。コア試供体の径は、最大粗骨材寸法の3倍以上とされているので、75mm以上は求められます。

試供体をコア抜きします
耐圧試験機で破壊検査をします

3.鉄筋検査

鉄筋不足の懸念がされる現象が出ている場合は、検査位置を絞って鉄筋の位置・径を調査します。RCレーダーやX線放射が有効です。前者は鉄筋の深さとピッチ、後者は鉄筋径がわかります。調査場所の環境により、調査手段を選択します。

料金

料金はすべて税別表示です

1.聞き取り調査・書類チェック

事前調査 無料

2.図面の復元

意匠図の復元 150,000円~/棟
躯体図の復元 300,000円~/棟
コア抜き別途
配筋図の復元 500,000円~/棟
鉄筋検査別途

3.建物診断 1次診断

仕上材等の経年劣化診断 150,000円~/棟
躯体のひび割れ検査 150,000円~/棟
不同沈下調査 100,000円~/棟
エキスパンション調査 100,000円~/棟

4.建物診断 2次診断

コンクリート中性化試験 70,000円~
コンクリート圧縮強度試験 150,000円~
鉄筋検査 150,000円~

※上記料金に実費の旅費交通費が加算されます。
ただし現地および打ち合わせ場所が東京都23区内の場合は旅費交通費はかかりません。

事例

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